州太 いゝや、それが間違つてる。二葉に訊いて御覧。こいつは、なんでも知つてゐるから……。おい、新井、なぜ、そんなところで黙つてるんだ。お前は、おれの片腕だ。もつと飲め。 新井 もう結構です。 州太 馬鹿云ふな。そんな風だから、人夫共に勝手な真似をされるんだ。 とね 余計なこと、およしなさいよ。 州太 今のは戯談だ。新井某は、これで豪傑だよ。足の裏へ釘をさしたま、平気で歩いて御座る。 表に、自動車の音。 新井が、表へ飛び出す。 やがて、彼は、一人の青年を案内して、戸口に現れる。 二葉 (その青年を見るなり、悶絶せんばかりに驚き)あら……どうして……? 青年は、鷹揚に帽子を脱ぎ、一同に会釈して部屋の中にはひる。二葉の婚約者、青木利元(二十七)である。 青木 (誰に云ふともなく)突然お邪魔して、どうかとも思ひましたが、急に是非(二葉の方を向き)お目にかゝつてお話したいことがあつたもんですから……。 州太 (それと察して二葉に)この方が、なにか……。 青木 始めまして……。僕、青木です。 州太 あゝさうですか。わたし、二葉の父です。 とね それぢや、(二葉に)あんたのお部屋がいゝでせう。ちよつと掃き出して来ますわ……。 とね奥に引つ込む 八王子 歯科