「それには、九十郎の驚くべき特徴を、知る事が出来たからなんだ。あの男は、俳優とは云え半聾だったのだ。然し、内耳の基礎膜には、微かに能力が止まっているので、それが九十郎に頗る科学的な発声法を編み出させたのだよ。それは、耳を塞いで物を云うと判る事だが、ハ行やサ行などの無声音以外は、欧氏管を伝わって内耳に唸りを起す。然しその無声音も、胸腔に響かせて胸声にして出すと、それが幾つもの段階に分かれて、響いて来るのだ。つまりそれに依って、九十郎は自分が出した声を判別する訳だが、勿論相手の言葉は、読唇法や胸震読法などで、読み取る事が出来るだろう。然し、この場合もし胸腔を圧迫したとしたら、自分が口にした音が、耳底には異なって響くに相違ないのだ。そうすると、別れの際に、孔雀が九十郎の胸に抱きついたと云う事は、結果に於いて、その微妙な法則が如何なる毒と化したかも判らない。つまり、自分の意志に反して口に出たと信じた言葉のために、九十郎は死地に誘われたに相違ないのだよ。それで熊城君、九十郎が半聾である事を僕が知り得たのは、孔雀が云った、――喰物を口にする時は四辺を見廻すと云う一事からなんだ。それが、半聾者にとると、最も不安な時で、つまり、欧氏管から入る外部の音響が、唇で遮断されてしまうからなんだよ」コンタクト 通販 クレジットカードの雑学 ? クレジットカードの雑学トップページ