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 宮子は急に立ち停って、橋の欄干に凭れる真似をしながら、鶴雄の行き過ぎるのを待った。  そして、横眼を使いながら鶴雄の顔をじっと見つめた。  美しい。  宮子はふっと溜息が出るくらいの悩ましさに、胸がしめつけられた。 「町へ引きかえすのはよそう」  宮子は鶴雄が橋を渡って、撮影所のある通りへ折れて行くのを見ると、そう呟いて鶴雄のあとをつけて行った。 「――あの学生、もしかしたら、下鴨に下宿しているのかも知れない」  下宿をつき止めようと思ったのだ。  下宿さえつき止めて置けば、あとは同じ下鴨だから、近づいて行く手段はいくらでもある。  宮子がそう思ったのは、実は、彼女は昔下鴨から女専へ通っていた頃、やはり同じ下鴨の下宿から三高へ通っている学生に、彼女の方から話しかけて親しくなったあげく、その学生の下宿でありきたりの関係に陥ったことがある。  いわば、宮子は結婚する時にはもう処女を失っていたのである。  宮子が結婚する頃には、その学生は東京の大学へはいっていたので、既にどちらからともなく関係が切れており、宮子もその男のことはいつか忘れてしまった。  ところが今、鶴雄を見た途端宮子はいきなりその学生のことを思い出した。  三高生で、色が白く、背が高いというところが似ているのだった。 「しかし、この三高生の方がずっと可愛いい」  宮子はにわかに青春が甦って来た想いで随いて行くと、果して鶴雄は撮影所の前を真っ直ぐ歩いて行った。歯科 税務 吉凶は人によりて日によらず