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 土門が来るまでに、大急ぎで土門に就いて述べて置こう。  土門は自分では五十歳だといいふらしているが、本当は三十六歳である。しかし、如何にも三十六歳らしい顔をしている土門の印象を捉えることは容易ではない。つまり非常に老けて見えたり若く見えたりするのだ。土門は自分自身の印象を変えるために、随分苦心していると、思われる節がある。たとえば豹一が見たのは頭髪をむやみに伸ばして眼鏡を掛けたところだったが、一月経てば、丸坊主になり、眼鏡を外してしまっていないとは保証出来ないのである。夏にスキー帽を被って、劇場へ現われたりする。毎年一回昇給するその翌日は、必ず洋服を着変えて出社し、「おかげをもちまして質受け出来ました」と真夏にわざと冬服である。そして、そういった尻から同僚に金を借りている。 「月給があがったんだろう! 貸し給え」  以前はそういうことはなかった。むだな冗談口ひとつ敲くようなことはなかったのだ。無口だが、しかしたとえば編輯会議などでは、糞真面目な議論をやったものである。観念的だとか弁証法的だとか、妥協を知らぬ過激な議論をやっていたものである。なんでも学生時代からある社会運動に加っていたとかいうことで、そういえばたしかにそんな理窟っぽい口吻があった。 

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